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2007年5月10日 (木)

判官びいきにかける新日鉄

次々に各国の鉄鋼会社を買収し一代で世界の鉄鋼王に成り上がったインド人、ラクシュミ・ミタル氏。

「彼の次のターゲットはどこか」と世界の注目が集まる中、買収の脅威に備えた新日鉄首脳の動きを追うNHKスペシャルが先日、放映された。

ミタル氏とはいったい、どういう人物なのか。僕はそこに一番の関心を持って番組を見た。

しかし、関心の方向はすぐに変わった。

普通、戦う相手に弱みは見せないものだ。ところが、その番組で見た光景は弱みどころか、手の内をさらけ出しているようにさえ見えた。

新日鉄はなぜ、昨年秋からの密着取材をOKしたのだろう。

カメラはひたすら新日鉄の三村明夫社長を追った。世界に誇る新日鉄の技術力。ミタルがそれを欲しがらないはずはない。買収を仕掛けられることを前提に、特命チームが防衛策を練り、三村社長と協議を重ねた。

そして、世界の業界首脳が集まるホテルでの会議の場面。大きな目が鋭く光るミタル氏のテーブルに三村氏が近づいていく。理知的な優しい目をした細身の三村氏が、二言三言、声をかける。三村氏より年下のミタル氏はテーブルに座ったままうなずいた。

獰猛な蛇に呑み込まれないように緊張している三村氏の胸の鼓動が聞こえてくるようだった。

東大経済学部を首席で卒業し、順調にエリート街道を駆け上った三村氏。対して、ミタル氏はインドネシアの小さな電炉工場から出発し、トリニダードトバゴやカザフスタンの国営製鉄所の再建などいくつもの修羅場をくぐり抜け、ついには世界1位の鉄鋼会社アルセロールまでも「小が大を食う」買収で手中に収めたM&Aのツワモノである。

「新日鉄はミタルにやられるな」と感じさせるに十分なやりとりであった。

しかし、新日鉄側は周到な計算をしていたに違いない。三村社長の温厚で、優しく、隠し立てをしない実直な人柄を前面に出していたことである。この点で広報担当者とNHKディレクターとの間にどのような話がなされていたか、あるいはなかったのか、それはどちらでもいい。少なくとも新日鉄側は、三村社長を主役にすることで何かをアピールしたかったのではないだろうか。

僕にはこのように思える。この二人の人物により、ミタル氏を「錬金術で、あっという間に成り上がった」強欲な悪人、三村氏を「長年かかって良い技術、品質を追求してきた」善人とみる単純なイメージをある程度、視聴者の頭のどこかに植えつけたかった。

いまひとつは、日本人の心情に訴えたかった。40万人といわれる個人投資家を味方につけることが、最大の防衛策であるからだ。

個人投資家がこの番組を観てどう感じたか。そして、イザというとき、短期的な儲けに走るのか、それとも新日鉄の現経営陣に味方するのか。三角合併が解禁され、大買収時代が始まった今、国家・国民と企業、そして企業における株主と社員・経営陣の関係をどうとらえ、投資していくかを投資家自身がよく考えなければならない。

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TVの映像が見えるかのような描写。すごいです。

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