リトビネンコ事件の巨大な闇
MI6(イギリス情報局秘密情報部 SIS)か、FSB(ロシア連邦保安庁)か、それとも・・・。放射性物質ポロニウムによって殺害されたアレクサンドル・リトビネンコ氏の事件は、二つの大国のインテリジェンス機関が関与しているのかどうかという、背筋の凍る「サスペンス」である。
MI6は国外諜報を主とする組織で、映画「007」ジェームス・ボンドで一般に知られる存在になった。FSBはソ連KGBを引き継ぐ、最も強力なロシア特務機関だ。
この事件では、英国のメディアを中心に当初から、かつてリトビネンコ氏が所属していたロシア・FSBの関与説が流れたが、ロシア側は関与を否定した。
英国検察当局はリトビネンコ氏が倒れる直前に会った数人のうちの一人、ロシアの実業家、アンドレイ・ルゴボイ氏を容疑者としてロシアに身柄引き渡しを要求。ロシア当局はそれに応じる気配がない。
渦中のアンドレイ・ルゴボイ氏は先日、モスクワ市内で記者会見に応じた。
ルゴボイ氏は細身の体を今流行のストライプ柄スーツに包み、記者会見場に現れた。場所はモスクワ市内。サングラスを外し、40歳を過ぎたばかりの、どちらかというとひ弱な感じさえ漂わせる青白い端正な顔を、国営テレビのカメラに向けた。
「英国は私を身代わりの犠牲者にしようとしている」
ルゴボイ氏は、放射性物質ポロニウムを使ってリトビネンコ氏を毒殺したとされる容疑についてきっぱりと否定。そのうえで、MI6(イギリス情報局秘密情報部)、マフィア、そして英国亡命中の実業家、ボリス・ベレゾフスキー氏の関与の可能性を指摘した。
リトビネンコ氏とその後援者ベレゾフスキー氏はともにMI6のメンバーで、プーチン大統領を政権から追い落とすための情報収集をしていたというのだ。
これに対して、さっそく、英国内でベレゾフスキー氏が反論した。
「私がMI6のエージェントでないことは英国当局が一番知っている。ルゴボイ氏の記者会見の内容で、背後にロシア政府の存在があることがより鮮明になった」
ベレゾフスキー氏はソ連でペレストロイカの経済自由化が行われたときにビジネスを始め、新興財閥に成り上がったいわゆる「オリガルヒ」と呼ばれる資本家の代表格。2000年の大統領選挙でプーチンを支持したが、その後、逆にオリガルヒの勢力を削ぎにかかったプーチン政権のもと、アエロフロート資金の横領疑惑などで詐欺罪に問われ、英国へ亡命した。
一方、今年4月16日、、ロシア最高検察庁は、ベレゾフスキー氏の身柄を引き渡すよう英政府に要請。ベレゾフスキー氏は英紙のインタビューに答え、ロシアでクーデターを起こす計画をぶち上げて、話題になっていた。
リトビネンコ氏はKGBの後継機関であるFSBの元情報将校で、1998年11月、局の同僚7人と共に記者会見。FSB局長らがベレゾフスキーら2人の暗殺を指示し、彼らは、命令を拒否したと発表。その後も、FSB批判を繰り返し、3度の刑事告発を受けたが、イギリスに亡命しプーチン政権批判を続けた。そして、同じくプーチン政権に批判的な報道姿勢を貫いたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ射殺事件の真相を究明していたといわれる。
ルゴボイ氏はKGBの元職員だが、FSBには入らず、従業員500人の飲料工場を共同で経営しているという。
ルゴボイ氏はリトビネンコ氏との関係について、ロシアのラジオ番組でこう語っている。
「知り合ってから10年になりますが彼が出国する前は顔見知り程度でした。彼は私がかつて勤めていたロシア公共テレビの所有者、ベレゾフスキーと親しくなり、それで私たちはよく会うようになりました」。
「彼の出国後、音信不通になっていましたが、2年ほど前に彼から電話がありました。ロシアへの投資に関心がある英国の大企業に紹介してもいい、と言うので彼に同席してもらって、いくつかの有名企業と話をしました」。
英検察当局が十分な証拠がそろったとしながらも、何をもってルゴボイ氏を容疑者と断定したのかは定かでない。
また、ルゴボイ氏がMI6やベレゾフスキー氏の関わりを指摘する具体的根拠も示されていない。
「リトビネンコはMI6にとってコントロールできない存在になったので消された」と言うのみである。
ただ、確かなのはリトビネンコ氏の体内から、ウランの100億倍の「比放射能」を有する放射性物質のポロニウム210が大量に検出されたという事実である。大量のポロニウム210を人工的に作るには、原子力施設など大がかりな設備が必要とされる。個人の仕業とはとうてい考えられないということだ。
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