もう一つのロッキード事件と防衛疑惑、そして大連立騒動
全日空のトライスターという飛行機は1974年に初就航、1995年に退役した。
記者時代にコックピットに体験搭乗させてもらったことがある。たしか、1980年ごろだったと思う。離陸滑走、上昇、水平飛行、着陸進入のすべてを自動化したシステムはスムーズに働き、その日の天候の良さもあって、ほんとうに安定感のあるフライトだった。
このトライスターの全日空への導入をめぐる汚職容疑で、田中角栄元首相らが逮捕されたのがロッキード疑獄だが、実はこの事件では、もっと重要な問題が追及されないまま闇のなかに葬られている。
重要な問題とは、ロッキード社から防衛庁が導入した対潜哨戒機、P3Cオライオンをめぐる疑惑である。
全日空にトライスターが納入されて約2年後、ロッキード社が、全日空など世界各国の航空会社にトライスターを売り込むため、各国政府関係者に巨額の賄賂をばら撒いていたことが米国上院の公聴会で、明らかになった。
同時に、この公聴会では、航空自衛隊の次期対潜哨戒機の選定についても、当初の国産機導入という方針がが急に変わり、ロッキード社製P3Cの導入が決まったことが明らかになっている。
P3Cは一機80億円弱。防衛庁は45機を導入し、3500億円という国民の税金が投入された。
ロッキード社はトライスターとP3C売り込みのため、あの児玉誉士夫に21億円という巨額の工作資金を渡している。
11月4日の当ブログでもふれたが、児玉は自民党の前身、自由党の結党資金を提供し、裏側から日本を動かす大物フィクサーにのし上がった人物だ。米国CIAのエージェントでもあり、日本の裏社会とのつながりもあったことはほとんど常識といっていい。
この児玉に渡った資金の一部5億円がその後、ロッキードの代理店、丸紅などを通じ、田中角栄にひそかに渡されたことがロッキード社副会長の証言でわかっている。
ところが、残りの資金がどう流れ、防衛庁のP3C選定に誰がどう関わったかが明らかにされないまま、関係者の多くが亡くなって、深い闇に埋もれているのである。田中角栄らは「全日空ルート」で逮捕されたが、防衛庁がらみの「児玉ルート」はなぜか追及の手を逃れることができたのである。
ロッキード事件から30年余りを経て持ち上がった、防衛省と山田洋行をめぐる疑惑は、検察が捜査に乗り出したことで、政治家を巻き込む疑獄事件に発展する可能性が大きくなった。
すでに検察はアメリカに飛び、国防省や防衛関連企業の関係者から守屋前次官、宮崎元専務はもちろん、日本の政治家についての情報も入手したもようだ。
さて、今回の大連立騒ぎの仕掛け人、ナベツネこと渡辺恒雄氏が児玉氏と親しい間柄だったことはすでに書いた。児玉氏は同時に、渡辺氏の盟友、中曽根康弘元首相との関係も深かった。そのため、ロッキード事件の発覚後、最初に疑われたのは当時の幹事長、中曽根氏だった。
中曽根氏はこれまでいくつかの疑惑を向けられながらも、うまく切り抜け、政治家としての生命を維持してきた。これは、米国ハーバード大学国際セミナーでのキッシンジャー博士との出会いなどから、米国への理解が非常に深く、つねに米当局から守られてきた面があるようだ。
渡辺氏もキッシンジャー氏とは親しく、読売の紙面でキッシンジャー・中曽根対談を何度も企画している。
大連立話に小沢氏を引き入れることができると踏んで、渡辺氏は何回か小沢氏と会食しているといわれる。剛腕・小沢でさえ「会わざるを得ない」ナベツネの神通力のモトはどこにあるのだろうか。小沢氏は何か弱みでも握られているのだろうか。
防衛利権疑惑が持ち上がって以来、内心おだやかでない政治家はかなりいるだろう。30年間も、防衛利権をめぐる闇のなかで蠢いていた勢力を明るみに出さねばならない。
独立総合研究所の青山繁晴氏は某テレビ番組で「田中派から経世会、そしていまの平政研へと、防衛利権をめぐる政治家群が連なっている。それは、民主党の議員も例外ではない」と指摘した。民主党議員とは暗に、小沢氏を指しているのは明白だ。
青山氏は続けた。「ロッキード事件で、時の総理、三木武夫は検察の田中角栄逮捕を容認した。政権内の重要ポストにいる人間だったら、検察は手出しができなかったはずだ」
小沢氏が、防衛利権にからんでいて、追及を回避するために連立話に応じたという見方である。
青山氏はさらに一歩踏み込んで語った。「福田首相は片手で連立を、もう一つの手で検察という切り札をにぎっている」
ぼくは個人的に、小沢さんに頑張ってもらいたいと思っている。民主党にはすばらしい若手政治家が育ってきており、総選挙で勝って、一度は政権を握ってもらいたい。
ただ、過去における竹下登、金丸信ら金権政治家とのつながりが、いつまでも彼のイメージに暗い色を添えている。
そういう意味で、今回、ナベツネと密談し、その命を受けた森元首相とひそかに会い、一度は連立を決断したことは、ダーティーなイメージを増幅させる結果となった。まったく残念なことである。
(文中一部敬称略)
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