« 官僚主導の駆け引きで後手にまわった福田首相の決断 | トップページ | 一転、谷内外務次官勇退へ、伏魔殿の今後は? »

2007年12月26日 (水)

消えた日本版NSC構想、大丈夫か日本の危機管理

安倍前首相が創設に意欲を燃やしていた日本版「国家安全保障会議(NSC)」がとうとう、国会での審議もされないままご破算になった。

米国のNSCは大統領、副大統領、国務長官、国防長官の4名のみを正式メンバーとする最高意思決定機関のひとつ。CIA(中央情報局)はNSCの指示のもとに職務を遂行することになっている。

安倍は日本版のNSCとともに日本版CIAをつくろうと考えていた。本人が官房長官時代から公言してきたから間違いない。

個人的なパワーにより、現行制度のもとで官邸主導を実現した小泉純一郎から政権を引き継いだ安倍は、政治システムや組織の改編により、情報や権限を官邸に集中させようとしていたのだ。

調整型の福田に政権が移り、安倍構想ははかなく消えた形だが、世界の情報戦における後進国、ニッポンの課題は残る。外務省のラスプーチンといわれた情報分析のプロ、佐藤優の書いた本が、大きな話題になっているのも、国民の不安の表れだといえよう。

アメリカの9.11のような大規模テロや、他国からの攻撃など、国家の危機をどうやって予防し、いざというときに対処するか。残念ながら、戦後、60年以上もの間、安全保障を他国に依存してきた日本にその十分な対応力があるわけではない。

とくに、治安や軍事目的などで、情報収集や分析、評価をするインテリジェンスの分野で他国に大きく水をあけられている。

現代において、国を守り、智恵のある外交を展開するには、なによりも確かな情報が必要である。安倍はタテ割り行政のなかで分散しがちな重要情報を官邸に吸い上げ、いざというとき迅速に対応を決断する態勢をつくりたかったに違いない。

昨年、英国から米国へ向かう複数の旅客機を爆破させるという大規模なテロ計画があったのをご記憶だろうか。アルカイダとつながりがあるとみられる24人の犯人を、ロンドン警視庁は2006年8月9日に逮捕し、事件を未然に防いだ。

9.11の再現をめざすこの計画を、事前につかんだことは、英国のインテリジェンス能力の高さを証明した。英国にはSIS、MI5など4つの強力な情報機関がある。日本にも内閣情報調査室、防衛省情報本部、警察庁警備局、公安調査庁などが情報機関としてそれぞれ活動しているが、問題はそれを束ねるシステムがあるかどうかである。

同じ国であっても、組織が違えば相互に情報のやり取りなどしないのは、洋の東西を問わずどこの官僚組織も同じである。国家の利益より、自分、あるいはチームの手柄にしたいものだ。

日本と英国の違いで重要なのは、英国にはJICという組織があり、ここが先にあげた4つの情報機関を統括して、情報を吸い上げていることだ。しかも、少数精鋭だが、スタッフが充実している。

外交ジャーナリストの手嶋龍一は「JICの心臓部で働く評価スタッフがおびただしいインテリジェンス報告の中から、首相に報告すべきバリューを持った宝石を選り分け、報告書の筆を執るのです」と書いている。

日本にも似たようなモノはある。合同情報会議だ。各情報機関の連携をはかるため内閣官房副長官が主宰し、警察庁警備局長、防衛省防衛政策局長、公安調査庁次長、外務省国際情報統括官らが出席し隔週で開催される。しかし、専門の評価スタッフがおらず、限られた時間内での話し合いでは単なる“会議体”になりやすい。“組織体”として機能しなければどれだけの実効があるか疑問だ。

その意味でも、日本に必要なのは情報の収集、分析、評価の専門家である。

佐藤優は手嶋龍一との共著「インテリジェンス武器なき戦争」の中で、「インテリジェンスの世界では、組織より人なんです。大学や外務省、自衛隊、公安調査庁、内閣情報調査室、警察庁、経済産業省、財務省などから人間を集めて、インテリジェントスクールをつくり、教育すればいい」と指摘する。

重要情報を簡単に海外に持ち出せる「スパイ天国」でもある日本。海外から数多くのスパイが潜入し、他の肩書で身分を隠して情報収集活動を進めているという。イージス艦情報漏洩事件にみられる、機密情報管理の甘さも気になるところだ。

中東や北朝鮮など国益にかかわる海外情報を米国に頼りきっている現状は好ましいことではない。イラクに大量破壊兵器があると信じたのも、米国の情報を鵜呑みにしたからだ。実際には、CIAはイラク戦争以前に、「イラクに大量破壊兵器はない」とブッシュ大統領に報告していたということもいわれている。

情報機関といえば、人権弾圧をする秘密警察のようなイメージがあるかもしれないが、佐藤や手嶋の言うインテリジェンスは全く違うものだ。

安倍構想は消えたが、手嶋の「日本という国家が国際政治の嵐の中を生きていこうとすれば、卓抜したインテリジェンス・オフィサーを擁して戦い抜くほかはない」という意見には、十分心しておかねばならない。

                           (敬称略)

« 官僚主導の駆け引きで後手にまわった福田首相の決断 | トップページ | 一転、谷内外務次官勇退へ、伏魔殿の今後は? »

「ニュース」カテゴリの記事

「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

「経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/335692/9576311

この記事へのトラックバック一覧です: 消えた日本版NSC構想、大丈夫か日本の危機管理:

« 官僚主導の駆け引きで後手にまわった福田首相の決断 | トップページ | 一転、谷内外務次官勇退へ、伏魔殿の今後は? »

フォト

1日1回応援クリックお願いします↓

過去の全ての記事

2016年6月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    

microad

無料ブログはココログ