仁司泰正は石原銀行のA級戦犯か、犠牲者か
11日の東京都議会は深夜まで紛糾したようだ。もちろん破綻寸前の“石原銀行”をめぐってである。
大前研一のアドバイスを受けて、石原都知事が新銀行設立を思いつき、自己流の構想で突っ走ったことはすでにこのブログで書いた。
今回は、「旧経営陣の責任だ」と主張する石原知事によって、A級戦犯にされようとしている仁司泰正が、初代の代表執行役に就任したいきさつから話をはじめたい。
2001年8月、新銀行設立構想をプレスリリースした石原はすぐさま大塚俊郎出納長に命じて特命プロジェクトチームをつくり、プランづくりを進めた。
この過程で、専門家からは住宅ローンなど安全性の高い貸し出し業務が提案されたが、 石原都知事は「中小企業の支援」と「ベンチャーへの支援」推進を打ち出した。迫る知事選をにらんで、彼はこの考えにこだわり、2003年春の都知事選で公約としてぶち上げた。
308万票を得て、東京都知事に再選された石原は「東京発金融改革」なる旗印をかかげ、「資金調達に悩む中小企業を救済する」と宣言した。つねに時代のヒーローでありたいというこの人の病的な行動原理が発揮されたわけだ。
しかし、このプランはプロのバンカーからみて、とうていビジネスとして成立しない代物だった。そのため、まず代表者の人選が難航した。銀行家で手をあげるものはいない。さりとて、東京都の職員につとまる仕事でないことぐらい、石原だって百も承知だった。
そこで石原は一橋大学の一年先輩である経団連会長、奥田碩に相談をもちかけた。奥田はいうまでもなくトヨタ自動車の会長である。彼の頭にすぐに浮かんだのが部下の仁司泰正だ。ゼネラル・モーターズとの合弁事業に携わり、豊田通商監査役を務め、総合商社トーメンの経営再建を指揮した。企業再建や財務に詳しい。
奥田の紹介で、すんなり仁司が経営トップとなり、2005年4月1日、新銀行東京がスタートした。開業後の4月18日、東京都港区の高級料亭「赤坂浅田」で石原知事と仁司ら経営陣が高級ワインや焼酎で祝杯をあげていたことが知られている。目の前に座す「慎太郎」のオーラを受け、仁司も大きな幻想の穴倉に迷い込んだのだろう。
しかし、最初からこの人事に懸念を抱く普通の感覚の人が都や議会にいなかったのであろうか。いくら企業再建や財務に詳しいとはいえ、仁司は銀行家でもなければ、社長の経験すらない。そもそも、ファイナンスを受ける側である企業の財務と、銀行の業務は全く視点が違うはずである。銀行家は本来、決算書がわかればいいというものではなく、企業と経営者の質を見抜く眼力が必要である。
大前の提案を無視し、中小企業の支援に乗り出した以上、よけいに本来あるべき銀行家の資質が要求される。審査の経験も体制も不十分なまま中小企業への無担保融資を行なうという無謀な経営がまかり通ったのも、トップの人事が間違っていたからである。
他行より高い利子で預金者を集め、年利7~8%もの高金利で赤字の中小企業に融資した。いつの間にか不良債権がふくらみ、預金者への利子の支払いに追われ、銀行の累積赤字が拡大した。
こういう銀行の設立を許した都議会の責任も大きい。自分たちの判断の甘さを棚に上げて厳しく追及する議員たちに対し、石原知事は「初めてのペイオフを発動して、都民を混乱させるわけにはいかないでしょう」と、逆襲した。
負ける勝負に打って出て、負けた。それが、新銀行東京のいまの姿である。ところが、石原都知事は敗戦を認めない。認めたら責任を取らなくてはならないからだ。そればかりか、1000億円もの累積赤字を抱え込んで、もはや回復する見込みのないこの銀行に、さらに400億円をつぎ込んで傷口を広げようとしている。
さらに、この人らしいのが、「旧経営陣は常識から外れた運営をしていたが、日本を代表する経済界の重鎮から推薦を受け、安心して引き受けた」と、責任を奥田にまで転嫁したことだ。
この件で、報道陣に囲まれた奥田は「知らないよ、そんなもの。私にも、トヨタにも関係ない」と憤った。
石原が公式に奥田の名を出したわけではないが、誰が考えても銀行発足前の「日本を代表する経済界の重鎮」で、トヨタの関係者といえば、奥田ということになる。「よけいなことを言って」と奥田ははらわたが煮えくり返っているに違いない。
いかに奥田が仁司を紹介しようとも、選んだのは石原である。奥田が人事に責任を持ついわれはない。
いずれにせよ、奥田も、銀行設立のヒントを与えた大前も、石原を買いかぶっていたということだ。石原慎太郎ともあろう人物が、熟慮もなしに、自らの思いだけでコトを進めるとは夢にも思っていなかったに違いない。しかも、今になって「膨大な仕事量を抱えている知事に、なんでもかんでもできるわけではない」と開き直る。
石原都知事は就任以来はじめて窮地に立たされている。進むも地獄、退くも地獄。妙手が見つかるとも思えない。あの人らしく唯我独尊で突き進むとしても、いつまで続くだろうか。
(敬称略)
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