「一般財源化」閣議決定の虚しさ
福田首相は当然のことながら政権を維持したい。そのために民意に沿って、来年度から道路特定財源を一般財源化することを閣議決定した。内閣のトップとしてこれはできる。
ふつうは、自民党の党議決定や事務次官会議を経た案件を、全閣僚の花押(署名)という儀式で内閣の意思決定とする。しかし今回は、党道路調査会の了承や党議決定のプロセスをカットしている。党の考えがまとまるのを待っていては埒があかないことが一つ。いまひとつは、法律案ではないので、党と没交渉でも支障がないゆえである。
党側、すなわち国会のほうでは、同じ日に、全く相矛盾する「特例法」を衆院で再可決した。道路特定財源を10年間維持するという内容だ。自民党道路族議員は、これで法律という絶対的な道路建設の担保を得た。
一方、医療や福祉の財源カットに苦しむ国民は「一般財源化」の閣議決定で何を担保できただろうか。では、まず閣議決定の中身を検討しよう。骨子はこうだ。
道路特別会計のムダを徹底的に排除する▽道路特定財源は09年度から一般財源化する▽必要とされる道路は着実に整備する▽一般財源化に法改正し、「道路財源特例法」は09年度から適用されない。
09年度から一般財源化するが、必要とされる道路は着実に整備する。このことを、福田内閣が閣議決定したということである。さて、閣議決定に法的効力があるのだろうか。
これについては、2002年12月12日提出、民主党・長妻昭の「閣議決定の法的効力」質問主意書に対する内閣の答弁書がある。
「閣議決定は、法令には当たらず、これに反したとしても法令違反となるわけではないが、内閣の意思決定として、国務大臣はもとより、内閣の統括下にあるすべての行政機関を拘束する」
つまり、閣議決定は行政機関を拘束するが、法的拘束力はない、と言っている。福田内閣の意思決定であって、この内閣が存続している間、行政機関はその決定を無視できない。しかし政権が交代し、違う閣議決定がおこなわれば、それに従うということだろう。
残念ながら、今回の「一般財源化」閣議決定は、つつましい生活のなかから税金を払い続ける一般国民に、はかない期待をいだかせても、福音をもたらすものではない。医療や福祉や環境におカネがまわってくるという保証をするものでは全くないのだ。
日本の議院内閣制は、国会が内閣総理大臣を指名する。分立といいながら、議会優位の制度である。だから、長年にわたり自民党の族議員と、それに結びついた官僚組織が実権を握ってきた。
今回の閣議決定にもとづき、09年度からの一般財源化を法案にするときは、議会を通さなければならないから、自民党の機関決定がどうしても必要になる。
党の反対が強い場合、法案を実現するための福田首相の武器は、伝家の宝刀「解散権」による脅迫しかない。「福田首相のもとで総選挙になれば自民党は大敗する」という見方が大勢だ。「死なばもろとも」と、その状況を逆利用されるのが党としては一番怖い。
ただ、首相がその宝刀をちらつかせながら一般財源化法案を党に認めさせ、法律が成立したとしても、毎年度の予算分捕り合戦において、道路族が強大な実権を発揮すれば、これまでどおり道路建設に血税が注ぎこまれることになる。
自民党が道路利権に拠って立つ政党であるという根本問題が解決しないかぎり、自民党政治を変えることは至難の業だろう。
(敬称略)
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