朝日の中国当局「取材対応マニュアル」報道への疑問
朝日新聞の北京支局、峯村健司記者は中国当局の「取材対応マニュアル」を発見したらしい。政府の報道担当者向けのものである。
海外メディアに対しては、宣伝活動を強め、国内メディアには言論統制を強化する、という。いわば二重構造のメディア対応を指示している。
情報操作するのが当たり前の国である。北京五輪を前に、あらためて方針を示したのだろう。
朝日はこれを受けて、30日から「奔流中国21」なる大連載を同時に始めた。「変わるメディア」とサブタイトルがついている。
マニュアルには次のような内容が書かれているという。
「北京五輪を利用して中華民族の優秀さと歴史、文化を知らしめよう。そのために不可欠なのが、すぐれた宣伝活動だ」
「欧米メディアは五輪に絡めて人権や腐敗、環境汚染などマイナス面を強調し、敵意に満ちた誤解と偏見が中国のイメージを悪化させている」
その対策として「会見ではノーコメントと言わず、客観的なデータを提供し、政府の対策をアピールする」などの方針が打ち出され、チベット騒乱、四川大地震で積極的に会見をおこなったと峯村記者は指摘する。
その半面、スクープや調査報道が盛んになってきた国内メディアに対しては党中央宣伝部が強くブレーキをかける。
「決して取材の自由を認めたわけではない。触れられたくない敏感な問題が発生したときはまず避けろ、次に口止めをしろ、それでもだめなら封殺しろ」
これは従来と全く変わっていない。「不変の原則」だという。ここまで読み進んだ限りでは、中国当局のメディア対応がそれほど変化したという印象は受けない。海外メディア対策には多少知恵がついてきようだが、宣伝色が強すぎると信用されない。
メディアを国益のための宣伝に利用するのはどこの国でもやっていることである。だから、ジャーナリストはその国の政府から提供された情報をうのみにせず、独自に客観的な情報を集める必要がある。
ところが、自由な取材活動を制限されるという実態は、中国において、いささかも変わっていないのだ。
記者会見の数が増え、出すデータの量が多くなっただけでは、中国当局のメディア対応に大きな変化があったとみることはできまい。
峯村記者は、市場経済の波が中国のメディア界に変化をもたらしているとも指摘する。
80年に広告収入が認められ、民間資本がメディアに参入できるようにもなった。83年に773紙だった新聞は03年に2119紙になり、テレビチャンネル数も90年の554から06年には2983に増えた。
この競争を勝ち抜くためにはスクープが必要なのだとし、党中央宣伝部関係者の「メディアは以前のように従順ではなく、膨大な記事を全てチェックすることは不可能だ」という発言を紹介する。
これだけの情報をもって、「中国メディアがいずれ体制を揺さぶる存在に育つ可能性を見せつつある」と結んでいる。
ここに書いてあるのはつまるところ、中国当局がメディア対応マニュアルを作成し、記者会見の回数や情報量を増やしたこと。海外メディアにはうまく中国の考えをアピールし、国内メディアは締め付けを強化する方針であること。中央宣伝部が「最近はメディアの数が増えすぎてチェックしきれない」と話していること。それだけである。
これもまた、西側メディアに「中国の情報自由化への流れ」を印象づける中央宣伝部などのリークで、結果としてそのネライ通りに書かされてしまった記事であるという疑念をぬぐえないのは、筆者のへそ曲がりのせいだろうか。
ちなみに、中央宣伝部は中国メディアを管理監督する最高機関で、報道内容に問題のあるメディアを処分する。その巨大な権力は中国の改革・発展の阻害要因の一つだという指摘もある。
マスメディアの急増やインターネットの普及など、たしかに当局が規制しきれなくなったという状況変化はあるだろう。しかも今後の中国経済や社会の矛盾が政権内部の地殻変動を引き起こし、中国メディアの成長が後押しして体制を変えていく可能性がないわけではない。ただ、それは「取材対応マニュアル」とは何の関係もないことだ。
中国の現実に対する見方の甘さを感じないわけではないが、朝日新聞北京支局の、中国当局に寄せる「取材・報道の自由化」への期待感は、この連載から伝わってくる。今後の奮闘を期待したい。


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