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2008年7月20日 (日)

長銀事件の真犯人は誰だ

旧大蔵省と、いわば“共同正犯”で不良債権隠しをしていた旧日本長期信用銀行。

ある日突然、責任逃れを画策して大蔵省が「不良債権判断」を厳しい方針に転換したが、当時の頭取、大野木克信らは新ルールに対応できず、結果的に粉飾決算の首謀者という烙印を押された。

18日、最高裁で逆転無罪を勝ち取ったものの、10年前とは別人のように大野木の体は痩せこけていた。

長銀破綻の真犯人は何か。結論から言うと、旧大蔵省の護送船団行政と、“箸の上げ下ろし”まで大蔵省の意向を伺うような風土を許容し、銀行マンとしての本来の気概を持たなかった長銀の二人の「ドン」であろう。

そもそも、ある時期から長銀の存在理由は失われていた。高度経済成長期には重厚長大産業の支援に大きな役割を果たした。しかし大企業の資金調達が間接金融から直接金融へシフトするにつれ、存立基盤が危うくなった。

1971年から89年まで頭取・会長を務めた杉浦敏介(故人)は生き残りをかけ新興企業への融資にシフトした。もちろん、大蔵指導のもとにである。この杉浦と、後任の頭取に就任した堀江鉄弥の「イ・アイ・イ・インターナショナル」グループへの過剰融資が、長銀の命取りとなったのである。

長銀を潰した男といわれる「イ・アイ・イ」の総帥、高橋治則と長銀が取引を始めたのは1985年のことだった。高橋はバブル期に、国内外のホテルやゴルフ場などの買収を繰り広げ、ピーク時のグループ総資産が1兆円にのぼった。「リゾート王」ともてはやされ、自家用ジェット機で世界を飛び回る姿がテレビなどでも紹介された。

さきごろ手形詐欺事件で収監されたヤメ検弁護士、田中森一は高橋と親交があった。彼の著書「反転」には、長銀から湯水のごとく融資を引き出して破綻させたという定説は、実態と異なると書かれている。

「新規融資の分を振り込んでおきました。自由に使ってください」と長銀の担当者から電話がかかってきて「使い道に困る」と高橋がこぼしていたという。田中は、高橋の事業は長銀との二人三脚だった、と断言する。

高橋が、理事長だった東京協和信組の背任事件で逮捕されたあと、堀江頭取は国会の証人喚問で「イ・アイ・イ」への管理責任を厳しく追及され、マスコミの非難を浴びて辞任。そのあとを継いで頭取になったのが大野木だった。

大野木は「外部環境の変化に対応できる銀行」への脱皮をめざし、護送船団からの離脱とも思える挑戦に打って出る。その最大の戦略はスイス銀行との対等な資本提携だった。97年7月、都内のホテルで大野木と、スイス銀行側の幹部がそろって記者発表したとき、長銀関係者は「これで生き残れる」と胸をなでおろしたことだろう。

このあと、大蔵省の方針変更が長銀の行く手を阻んだ。大蔵省はそれまで、銀行が関連会社と称するペーパーカンパニーに、含み損をかかえた債権を移すいわゆる「飛ばし」を認めてきた経緯があった。債務者が銀行の積極支援先であれば倒産はないとみて、「破綻懸念先扱い」しないという理屈を通してきた。

ところが、98年4月から早期是正措置を導入、6月から金融監督庁を新設するなど対策強化の流れを見越し、銀行との共同責任の追及を免れるため、大蔵省は98年3月期から「積極支援先でも破綻の可能性が大きければ、破綻懸念扱いとする」とルール変更したのだ。

大野木は困惑した。金融当局の新方針に合わせると、財務の数字が一気に悪化し、無配に転落してスイス銀行との提携による2000億円の資金調達が困難になる。悩みぬいた末の決断は、配当を維持するという選択だった。これが、粉飾決算事件につながっていく。

結局、長銀は経営危機がマスコミに報じられ、みるみる株価が急落、98年10月、成立したばかりの金融再生法により一時国有化された。投入した公的資金は約7兆9,000億円にのぼった。

その後、旧長銀は外資系投資ファンド「リップルウッド」が10億円という破格値で買収。自己資金1200億円を投入し、新生銀行として2004年2月19日に上場、2200億円を稼いだことは周知の通り。これ以降もいわゆる外資の「ハゲタカファンド」が続々と上陸して、獲物を探し当てては買収を繰り広げた。

大蔵省・銀行護送船団の読み違いは、土地などの資産がいずれ上昇に転じるという幻想に囚われ、不良債権処理を先送りし続けたことにある。

個々には優秀な人材が揃い、一つ一つのアイデアが素晴らしくても、集団になると何ごともまとまらず、進むべき方向が見つからないまま「みんなで渡れば怖くない」状態となる。

「問題先送り」は政官界の特質の一つだ。民間企業でそれをやっていたら、潰れるのは時間の問題だろう。


                        (敬称略)

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