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2008年8月28日 (木)

伊藤さん拉致殺害事件とアフガン政府・警察の腐敗

アフガニスタン東部で医療や農業支援を続けている「ペシャワール会」のボランティア、伊藤和也さんが拉致、殺害された痛ましい事件は、現地の治安情勢が極限まで悪化していることをうかがわせる。

事件の背景を探るため今日の新聞各紙を読んでいくうちに、気になったことがある。犯行に関わったとされるタリバンに関する基本認識が、現地で活動している「ペシャワール会」代表、中村哲医師のそれと大きく乖離していることだ。

各紙とも、日本の外務省に入った情報か、バンコク特派員電をもとに紙面を構成している。現地取材が困難である以上、これもしかたがない。ただ、いずれも情報源はアフガン政府外交筋ということになる。

当然、その情報は政府の正当性を強調し、全ての問題をタリバンのせいにする。産経新聞のバンコク発の記事の以下の表現をみればよくわかる。

「2006年ごろからイスラム原理主義勢力タリバンの活動が再燃したのと並行し、これまで比較的安全とされていた地域でもテロが深刻さを増している」

「タリバンは、拘束されている幹部の釈放を人質解放の交換条件とし、身代金も要求するなど悪質化している」

米情報機関の報告では、今年初頭の時点でアフガニスタン政府が掌握している地域は全土の30%に過ぎない。あとの70%は無政府状態である。

対テロ戦争でタリバン政権が崩壊したあと、新たな支配層となった元軍閥は、武装した若者に監督させて農民を麻薬生産に駆り立て、儲けた金を自らのフトコロにしまいこんでいる。警察も腐敗の温床となっている。

中村哲医師が「ペシャワール会」のホームページに掲載している報告は、村民の視点から生々しい現地事情を書き記している。

「農村部で外国軍とその協力者が安全でいられる地域は、もはや消滅しつつある。アフガン東部では、米軍の協力者として振舞ってきたパシャイ民族系の軍閥たちも、タリバーン勢と妥協の道を探っているといわれる。多くの地域で、行政の末端にタリバーン勢力の参加なしに秩序が保たれなくなっている。」

この記述から推測されるのは、政府や警察への信認が失墜し、治安が極端に悪化した結果、強力な武力を持つタリバンを味方につけなければ村の安全が守れなくなっているという憂うべき実態ではないだろうか。

誤解ないように付け加えるが、筆者はイスラム原理主義勢力やタリバンを擁護する気持ちは毛頭ない。日本に伝えられる情報が、腐敗したアフガン政府の一方的な発表により、ステレオタイプなものになることを危惧しているだけである。

中村医師はこうも書いている。「派手なふれこみで行われた対テロ戦争は莫大な浪費の挙句、その破綻は誰の目にも明らかになったと言えよう。餓えた膨大な人々の群れは、もはや沈黙しなくなってきている。破局は目前に迫っていると言ってよい」。

戦火の拡大と、大旱魃による食糧不足、輸入小麦の高騰。貧しく飢えた人々の心は荒廃し、ときに暴力的になる。欧米軍の地域復興支援とは一線を画し、現地の村人に溶け込む活動で信頼を得てきた「ペシャワール会」ボランティアの不条理な死は、「日本人だけは大丈夫」という神話を崩壊させた。

朝日新聞によると、民主党の前原誠司副代表はこの事件を受け、アフガン支援について「国際協力を強化しなくてはならない」と強調、想定される自衛隊の活動として航空輸送と民生支援の警護を挙げたという。

ここにも現地日本人との大きな認識のギャップがみられる。中村医師は「日本が兵力を派遣すれば、ペシャワール会は邦人ワーカーの生命を守るために、活動を一時停止する。これまで、少なくともアフガン東部で親日感情をつないできた糸が切れると、自衛隊はもちろん、邦人が攻撃にさらされよう」と指摘している。

「中立」と信じるがゆえアフガンの村人は日本人を信頼してきた。その心情を理解しようとしない政治家の「力の論理」に中村医師は警鐘を鳴らしているのである。


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コメント

ペシャワール会の活動が、現地の一部の人の利権化になってはいませんか?
ペシャワール会に怨恨を持つ人が、伊藤和也さんを殺害した可能性は?

> 「中立」と信じるがゆえアフガンの村人は日本人を信頼してきた。その心情を理解しようとしない政治家の「力の論理」

これは、タリバン側にも当てはまりませんか?

ペシャワール会が考えているほど、世界は甘くないということが、今回の伊藤さんの殺害で証明されたということでしょう。
また、頼まれもしないのに、他所の国へ行って活動する人々の、善意も問題にされるべきでしょう。
そこには、自分の文化や文明、あるいは生き方が最高だという思い上がりがあるのではないですか。
しかも、きわめて危険な内戦中の国へ、憲法9条に守られているというような、幼稚な思想を背景にして行かせた組織にも問題大ありでしょう。
伊藤さんの死を無駄にしないためにも、これを機に、人間と世界の複雑さを、もっと真剣に考えるべきだと思います。

喜んでくれてた人達もいるんだし、「頼まれもしないのに」ってことはないような。

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