麻生首相に解散先送りを決断させた菅義偉の進言
温厚な顔に似合わぬ腕力を有し、いまや数少なくなった“玄人政治家”の匂いを漂わす菅義偉。集団就職で上京、一介の秘書からたたき上げで国会議員になり、自民党の出世街道をかけのぼった男だ。
麻生首相が解散先送りを決断した背後に、選対副委員長である菅の強い進言があったことを、期せずして1日の日経、産経両紙が報じている。菅は中川昭一、甘利明とともに麻生政権誕生に奔走。4人の頭文字を並べて「NASA」と呼ばれる“お仲間”の一人だ。
日経によると、9月30日、麻生首相は与党の過半数割れもありうるという党の情勢分析に「思ったよりいいじゃないか。足りない分はオレの手で伸ばしてみせる」と早期解散に前向きな姿勢を見せた。
これに対し、菅は「今はやめたほうがいい」と経済情勢悪化を盾に解散先送りを主張した。
産経はこう書く。10月9日、麻生は「11月30日投開票」の考えを菅に話した。「今解散すれば大敗しかねない」。菅はそういって必死に止めたが、麻生は聞く耳持たず、細田幹事長に選挙準備を指示した。
その流れが変わったのが10月16日のことだった。これは日経、産経両紙とも一致している。
その夜、都内のホテルに「NASA」メンバーが集結した。麻生は11月30日投開票を前提に「追加経済対策のメニューをずらっと示し信を問えばいいじゃないか」(産経)と語った。
文芸春秋11月号で、「国会の冒頭、堂々と自民党の政策を小沢代表にぶつけ、その賛否をただしたうえで国民に信を問おうと思う」とぶち上げている以上、選挙情勢分析がが多少不利であっても、そうやすやすと逃げるわけにはいかない。
これに対して、菅、中川、甘利の三人は首相に思いとどまるよう必死で口説いたという。三人の心の底には、解散総選挙で敗れて野に下り、自民党が空中分解する恐怖が広がっていた。
この会談のあと、麻生の気持ちはしだいに解散先延ばしへと傾いていった。
ところで、菅は中川とともに、安倍晋三の“相談相手”としても知られる。安倍政権といえば、行き過ぎた「側近政治」が求心力を弱めた例である。
菅ら「NASA」メンバーが、麻生首相の解散時期の判断に決定的な影響力を及ぼしたとなると、ただでさえ党内基盤の脆弱な麻生首相から人心が離れていくことが懸念される。
だから、彼らの当面の関心事は、緊急経済対策発表の記者会見を見たあと、世論調査結果がどう出るかということだろう。世論の支持が強まれば、党内での求心力も高まる。
産経によると、森喜朗は30日夜、ソウルのホテルで麻生の会見中継を見てこう思ったそうだ。
「指導者は国民に安心を与え、この人なら任せてもいいと思ってもらえるかが大事だ。そういう意味でよい会見だったのではないかな」
さて、国民はどう受けとめたのか。麻生の会見の真の狙いは、政策の中身よりも、むしろ森の言う「頼りになる首相」のイメージを発信することだったのかもしれない。
今後の株価も麻生政権にとって気がかりだ。日銀が7年7ヶ月ぶりに利下げに踏み切ったとはいえ、0.5%という低金利から下げられる幅はたかが知れている。
結局、0.2%下げて0.3%にすることに落ち着いたが、世界の中央銀行との協調姿勢を示すくらいの効果しかない。すでに織り込み済みの株式市場は反応薄で、大引けまぎわに急落した。この日は、年金資金の買い観測も空振りに終わったようだ。
31日の日経平均終値は452円安の8576円。再び、8000円割れに向かうようなら、先ごろの急上昇でいったん安堵した国民の心理はよりきついダメージを受けるだろう。
連休明けから、麻生首相の舵取りはいよいよ正念場を迎える。 (敬称略)
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