経済・政治・国際

2007年5月16日 (水)

新冷戦と米露協調

今日は、コンドリーザ・ライス(愛称・コンディ)がモスクワまでプーチンに会いに行った話を取り上げてみたい。

 ミニのスーツをビシッと決め、足を組んで脚線を露わにし、説得力のある外交交渉を展開する才女と、冷徹な表情から時おりニヒルな笑顔がのぞくロシアの策謀家。どちらもクールで侮れない魅力を持っている。

 コンディの訪問の目的。いうまでもなく「新たな冷戦」とさえ言われる米ロ両国間の懸案を話し合うことだ。具体的に、メディアが取り上げているのはポーランド、チェコの中欧2カ国への米ミサイル防衛基地(MD)建設計画や、コソボ独立をめぐる両国の対立である。

 だが、この問題は所詮、双方とも主張を曲げるわけにはいかないだろう。プーチンが「米国は世界を一極化しようとしている」といえば、米国は「クレムリンへの権力集中は問題」と応酬するなど、メディアを通じての、批判合戦が続いていたが、これは主に選挙などをにらんだ国内向けという冷静な見方もある。

 当然、今回の訪問後の記者会見はー。

ロシアを訪問中のライス米国務長官は15日、モスクワ郊外でプーチン大統領と会談した。会談後、同席したラブロフ外相は「MDについては我々の立場を説明した。コソボ問題についてみなが納得する解決策を目指すことで合意したが、残念ながらまだ見あたらない」と述べた。ライス氏は「米国の安全保障政策への拒否権は認められない」と述べ、MD計画を推進する姿勢を改めて強調した。 (時事通信)

 予想通り、平行線の議論に終わったことになる。CNNやニューヨークタイムス(電子版)によると「お互い、きつい言葉で言い合うのはやめましょう」というのが唯一の一致点、というわけだ。

 ただ、ここからは僕の個人的見解になるが、米ロはやはり「パートナー」である。新冷戦でお互いの経済的利益を損なう必要は全くない、と考えているはずだ。
 
 いまや豊富な資源を元手に巨大化したロシアマネーは世界に投資先を求めている。ドイツの金融機関の支援で石油や天然ガスなど資源産業を次々と国有化したプーチンはアメリカにも天然ガスを売り込もうと考えている。
一方、アメリカもロシアマネーや、ロシアを代表する企業であるガスプロム、ロスネフチなどへの投資に強い関心を持っている。

 再び、経済的にも大国化しているロシアが、勢力圏をめぐって政治的にアメリカを牽制するのは自然の成り行きだが、当面、テロ対策とマネーにおいては協力せざるをえない。

 ゴンディもプーチンもお互いの政治的立場は理解しつつ、しっかりとリアルな経済問題について話し合ったのではないだろうか。

2007年5月14日 (月)

イムラン・カーン

  クリケットはパキスタンの国技であり、スター選手は国民的英雄だという。その英雄の一人、イムラン・カーン氏が政治家として再びヒーローの座をめざそうとしている。
 
 自らの政権に不利な司法判断を繰り返してきたチョードリー最高裁判所長官を、事実上解任したムシャラフ大統領。それに対し「司法の独立」を主張する法曹関係者や野党議員のリーダーとして、カーン氏が欧米メディアの脚光を浴び始めたのだ。
 
 パキスタンは今、政情不安の真っ只中にある。今年3月、チョードリー長官が解任されて以来、反ムシャラフの動きが広がり、ついに今月12日、銃撃戦をともなう衝突にまで発展、多数の死傷者を出した。
 
 首都、イスラマバードの高台にあるカーン氏の邸宅。CNNが彼を特集したテレビ画像に、夕日を浴びて市街を見渡すハンサムなその横顔が浮かび上がった。 

 1993年のW杯で主将としてチームを優勝に導き、その後、政治家に転身。英国経済界の大物、故ジェームス・ゴールドスミス卿の娘でダイアナ妃とも親交のあった社交界の花、ジャマイマと結婚し、息子2人を もうけた。20004年に彼のもとを去った妻はイギリスの有名俳優、ヒュー・グラントと浮名を流し、話題になった。

 これまで、政治的にはさしたる実績を示していないカーン氏だが、超有名人でもあり国民に対する影響力は強い。社会正義のため「司法の独立」を強くアピールできる政治家だといわれる。

 ムシャラフ大統領は軍人であり1999年の無血クーデターで国家元首となった。もともと軍はアフガンでの影響力を保持するためタリバンを支援してきた。親米派のムシャラフ大統領は9.11以降、アルカイーダが潜伏しているとされる地域でテロ掃討作戦を進めてきたが、軍内部にはいまだにタリバンを支援するグループがあり、過激派対策は進んでいない。

 米議会では「ムシャラフ以外に話ができる人物が必要だ」という声が上がり、ワシントンポストなど米国のメディアからも「ムシャラフはパキスタンの民主化もテロ対策もできない」と批判が出始めている。

 今回、CNNがカーン氏の特集を放映したのは、そうした「アナザーパーソン」待望論の表れとみることもできよう。
首相への返り咲きをねらうブット氏の動向とともに、カーン氏の活動からも目が離せない。

2007年5月12日 (土)

マルタとサルコジとセシリア

 大統領選挙の当選直後、自家用ジェット機でマルタ島に飛び、クルージングを楽しんだサルコジ氏はなかなかの傑物かもしれない。

 フランス人としてはお世辞にもカッコいいとはいえない。身長165センチという小柄で、投げキッスする姿は、「イザベル」に情熱的に愛をささやくシャルル・アズナブール、嫌いなタバコを苦々しくすっている姿は「勝手にしゃがれ」のジャン・ポール・ベルモンドを思い起こさせる。

 「堂々とした優雅な立ち振る舞い」というフランス大統領のイメージはなく、劣等感と強気が入り混じった人間独特の毒気が感じられ、そこがフランスという国の転機を暗示しているように見える。

 ハンガリー移民2世でパリ生まれ。ワインを含めアルコール類は一切だめ。好物はチョコレート。ワインを飲まないフランス人なんてイメージじゃないけど、僕らが映画やテレビに洗脳されているだけだろう。

 中学、高校の成績は思わしくなく、エリートではない人物が名を挙げたのは1993年。
パリ西郊の高級住宅地、ヌイイ・シュル・セーヌの市長時代、爆発物を持った男が幼稚園に侵入、園児ら21人を人質に立てこもった。現場に駆けつけたサルコジ市長は、現金1億フラン(約21億円)を要求する容疑者と直接交渉の末、46時間後、次々と園児らを解放させた。
 

 その勇気と力強さのイメージが経済的に停滞した「フランス型モデル」を変えてくれるのでは、という期待感につながった、とひとまず考えておこう。

 さて、妻のセシリアさん、長男ルイ君と共に優雅なバカンスを楽しんだサルコジ氏。そして彼を必死で追いかけるパパラッチ。サルコジ氏は明らかに、マスメディアの「ぜいたく批判」を計算に入れた上で、選挙直後のバカンスを決行したと、僕は考えている。

 彼は2度結婚しており、現在の妻セシリアとは、不倫愛の末に結婚。1998年には息子ルイが生まれる。しかし、セシリアは2005年、支持者の実業家とニューヨークへ駆け落ち。翌年に復縁したものの、セシリアは夫と別行動を取り、ファーストレディとなることも拒絶するといわれていた。
 

 「女にもてない」という劣等感があったかどうかは知らないが、サルコジ氏が一度は逃げられたセシリア夫人をともない、正式に大統領になる前に、仲睦まじくしている姿をアピールしたい、という思いはあったはずだ。
 

 「初の女性大統領誕生か」と話題になったロワイヤル氏に勝ち、週35時間制の撤廃、企業の競争力増強などを謳って、強い仏大統領への道を歩むサルコジ氏に、現時点での「女性観」を聞いてみたい。

2007年5月10日 (木)

判官びいきにかける新日鉄

次々に各国の鉄鋼会社を買収し一代で世界の鉄鋼王に成り上がったインド人、ラクシュミ・ミタル氏。

「彼の次のターゲットはどこか」と世界の注目が集まる中、買収の脅威に備えた新日鉄首脳の動きを追うNHKスペシャルが先日、放映された。

ミタル氏とはいったい、どういう人物なのか。僕はそこに一番の関心を持って番組を見た。

しかし、関心の方向はすぐに変わった。

普通、戦う相手に弱みは見せないものだ。ところが、その番組で見た光景は弱みどころか、手の内をさらけ出しているようにさえ見えた。

新日鉄はなぜ、昨年秋からの密着取材をOKしたのだろう。

カメラはひたすら新日鉄の三村明夫社長を追った。世界に誇る新日鉄の技術力。ミタルがそれを欲しがらないはずはない。買収を仕掛けられることを前提に、特命チームが防衛策を練り、三村社長と協議を重ねた。

そして、世界の業界首脳が集まるホテルでの会議の場面。大きな目が鋭く光るミタル氏のテーブルに三村氏が近づいていく。理知的な優しい目をした細身の三村氏が、二言三言、声をかける。三村氏より年下のミタル氏はテーブルに座ったままうなずいた。

獰猛な蛇に呑み込まれないように緊張している三村氏の胸の鼓動が聞こえてくるようだった。

東大経済学部を首席で卒業し、順調にエリート街道を駆け上った三村氏。対して、ミタル氏はインドネシアの小さな電炉工場から出発し、トリニダードトバゴやカザフスタンの国営製鉄所の再建などいくつもの修羅場をくぐり抜け、ついには世界1位の鉄鋼会社アルセロールまでも「小が大を食う」買収で手中に収めたM&Aのツワモノである。

「新日鉄はミタルにやられるな」と感じさせるに十分なやりとりであった。

しかし、新日鉄側は周到な計算をしていたに違いない。三村社長の温厚で、優しく、隠し立てをしない実直な人柄を前面に出していたことである。この点で広報担当者とNHKディレクターとの間にどのような話がなされていたか、あるいはなかったのか、それはどちらでもいい。少なくとも新日鉄側は、三村社長を主役にすることで何かをアピールしたかったのではないだろうか。

僕にはこのように思える。この二人の人物により、ミタル氏を「錬金術で、あっという間に成り上がった」強欲な悪人、三村氏を「長年かかって良い技術、品質を追求してきた」善人とみる単純なイメージをある程度、視聴者の頭のどこかに植えつけたかった。

いまひとつは、日本人の心情に訴えたかった。40万人といわれる個人投資家を味方につけることが、最大の防衛策であるからだ。

個人投資家がこの番組を観てどう感じたか。そして、イザというとき、短期的な儲けに走るのか、それとも新日鉄の現経営陣に味方するのか。三角合併が解禁され、大買収時代が始まった今、国家・国民と企業、そして企業における株主と社員・経営陣の関係をどうとらえ、投資していくかを投資家自身がよく考えなければならない。